となりの初恋
「海斗くんは、高橋さんのこと、本気で好きだと思うよ」


だらりと垂れていた高橋さんの手がリュックの紐を握る。


「……本当?」


高橋さんにそう聞かれた。
わたしは海斗くんじゃないから、本当のことは分からない。


でも、わたしは。


「うん。きっと、絶対そう。だってうち、海斗くんのことずっと見てたから」


わたしは、海斗くんを推してたんだから。
推しの考えることは分かりそうで分からないけど、今目の前にちりばめられたピースをかき集めたら分かる。


海斗くんは、高橋さんが好き。


「いいの?でも、石川さん。櫻井くんのこと、好きじゃないの?」


制服のポケットに手を入れて、何かを諦めたような笑みを作った。


「うちね、海斗くんのこと、好きになりたかったの」


高橋さんは相槌を打ってくれているけど、わたしが何を言いたいかさっぱりだろう。
いいんだ、それで。


この甘くて、酸っぱくて、苦い気持ちは、あなたには分からなくて良い。
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