となりの初恋
未だにリュックの紐を握りこんだ、高橋さんの声だった。


「石川さんは、ばかなんかじゃないです。その人のことが本気で好きで、好きでたまらなかったんですよね」


これが高橋さんじゃなかったら、わたしはきっと怒りだしていただろう。


あんたに何が分かる、って。
でも高橋さんから生み出される言葉は、押し殺されていた自分の気持ちをじんわりと溶かしていくように温かかった。


「うん、そう。大好きだった。忘れたかった」


だから、海斗くんを好きになろうとした。
前々から綺麗な顔の人だとは思っていたし、同じクラスだし、簡単に好きになれるだろうと思った。


「なのに、忘れられなかった」


視界が何かによって潤んでいく。
だめだよ、わたし。


高橋さんと話すなんてほぼ初めてなのに、いきなり泣くのは感情的すぎる。


「いいですよ、泣いて。せっかく打ち明けられたんですから、思いっきり泣いてください」
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