となりの初恋
「……もういいです」


それだけ言ってわたしは走り出した。
わざわざ走って追いかけてきてくれたのに、それをないがしろにするなんて。


だって仕方ないんだよ。


わたしはこんなにも透くんのことを想っているのに、ずっと好きなのに、どれだけ頑張っても透くんは誰のものにもならない。


いっそのこと誰かのものになってくれれば楽だった。


誰かのものになって、もう手の届かない存在になってくれれば。
そしたら簡単に諦めることができた。


でも無理だった。


透くんは誰のものにもならなかったし、わたしは他の人のことを好きにはなれなかった。


どうしてこんなに苦しいんだろう。


わたしだけ、なんでこんなにー


「花菜ちゃん」


優しく、でも力強く、引き留めるように腕を掴まれた。
振り向かない。振り向けない。


だって今のわたしの顔は、きっとひどい顔をしているから。


「……石川ちゃん、こっち向いて」
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