となりの初恋
幻聴だったのかな。


一回だけ、「花菜ちゃん」って呼ばれた気がしたんだ。
そう呼ばれたから、わたしは止まった。


なのに今、透くんはわたしを「石川ちゃん」って呼んだ。


「……花菜ちゃん。こっち向いてよ」


寂しそうな声に、わたしは振り向いた。
透くんは何か言いたげな表情をしていた。


「……分かんないんだよ、俺」

「透くん……?」


透くんが分からないことって、何なんだろう。
頭だって良いし、確か運動だって出来るし。


そんな透くんが分からないことなんて、あるのだろうか。


「……恋って何?好きって何?そんなことして、メリットなんてあるの?」


驚いた。
あんなに女の子に囲まれて、恋愛なんて簡単そうにしていた透くんが、そんなことを言うなんて。


余裕そうな態度も、優しい声色も、透くんは何のためにそんな態度を取っていたのだろうか。


「……透くん」
< 42 / 82 >

この作品をシェア

pagetop