となりの初恋
きっと俺のことなんか、本気じゃない。


優しくしてくれるから舞い上がって、うぬぼれて、好きだって勘違いするんだ。


みんな俺に、手を握って欲しいだけ。
この手は物理的な手じゃなくて、心にある、誰かと誰かを繋ぐ手。


一瞬握ってもらえればそれで良くて、温もりなんか残さないで離れていく。


俺はそんなんじゃ嫌だ。
心の底にある、俺の本当の手をすくい上げて、強く強く握ってくれる人はいないのか。


痛くて良い。
苦しくて良い。


それくらいじゃないと、俺は、気づけないから。


「……透くん」


ふと、石川ちゃんの声が脳裏をよぎった。


図書室を飛び出していった石川ちゃんを追いかけて、夕日に包まれながら走ったあの日のことを思い出した。


石川ちゃんは、何か違う気がした。
俺を受け入れてくれるような、そんな気が。


だから、ついあんなことを口走ってしまった。


『……恋って何?好きって何?そんなことして、メリットなんてあるの?』
< 51 / 82 >

この作品をシェア

pagetop