となりの初恋
だからこそそれに進まないように、沼のようなものに落ちてしまわないようにと、気をつけてきたはずなのに。


「好きな人は……いるよ」


櫻井くんの顔から、表情だけがすうっと抜けていく。
まるで、私に誰のことも好きになって欲しくないみたいに。


どうして?
どうしてそんな、切ない顔をするの?


別に良いじゃない。
あなたは私のこと、なんとも思ってないんでしょう?

ただ、遊んでいるだけなんじゃないの?


「……そっか。じゃあ俺帰るわ。また明日」

「え?櫻井くん、まだ」


私の言葉も聞かないまま、一方的な態度で櫻井くんは帰っていった。
こんなことは初めてだった。


櫻井くんはいつも、図書室の開いている時間ぎりぎりまでいてくれる。


ソファに身体をもたれさせて、私のことをのぞき込んで、色々なことを話してくれる。
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