元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜
 私も空を見上げた。
 雲がひとつ、ぽっかりとそこに浮かんでいる。

 大輝のご両親はあの上にいるのかな。

 不意に、高校の頃に見た、仏壇の中で寄り添って笑う二人の写真を思い出す。
 優しい風が、ふわりと南から吹いてきた。

「俺さ、今あの家に一人で住んでるんだけど。時々不意に思い出すんだよな、まだ父さんと母さんが生きてた、あの頃のこと」

「大輝……」

 言いながら、大輝に視線をうつした。
 彼はまだ、空を仰いでいる。

「なんて、過去はもう戻らないから仕方ないけど。でも、ちょっと懐かしいっつーか、そういう気持ちになった。快気祝いって俺がお祝い言いに来たのに、こんなにもらっちまった……、ありがとうな」

 そう言って、大輝はこちらに笑みを向けた。昼の日差しに照らされた、そのキラキラスマイルはいつもと同じなのに。

 ――大輝、寂しそう。

「ねえ、大輝」

 だからというわけではないが、私は気づけば口を開いていた。

「今度、お線香上げに行ってもいい?」

 大輝ははっと目を見開く。けれど、すぐに笑顔に戻って。

「おう、そうしてくれたら多分二人も喜ぶ」

 そう言って、「じゃあな」と車で去って行った。
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