パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「梓桜、今は――」

「今は友達だよ。大輝が戻ってきてるって、こっち来てから知ったし。今は、ただの友達……」

 そう、大輝は『友達』だ。
 昔から、自分を犠牲にしてしまうくらい優しい人。
 だから、きっと今も優しいだけ。

『俺のこと、もう一度好きになってほしい。俺はもう、梓桜と離れたくないし、手放したくないから』

 大輝にそう言われたことは、両親に知られたくなかった。私が大輝の隣に立つには、未熟すぎると、私自身が良く知っているから。

「恋人だったけど、高校のころのお付き合いなんて半ば興味みたいなものじゃん。大人になると結婚とか意識するけど、大輝とはきっとそういうのじゃなかったと思う」

 高校時代の恋心も、今は幻になってしまえばいい。大輝の優しさは、私を好きだからじゃなくて、根っからの彼の優しさだと思えばいい。

 そうすれば、私は彼に頼らずに生きていける。
 本当は、大輝の隣にいたい。
 だから、そのために私は自立したい。

 母のために、父のために。
 どうしようもない私が自立して、ここを出て、一人で生きていく理由の中に、『大輝とお付き合いするため』という理由が増えた。

 明日からも、また頑張ろう。

 両親が複雑な瞳をこちらに向けているのが分かったけれど、私はそう思って、無理やり笑顔を作った。

「颯麻、上に運んじゃうね」

 そう言うと、私は座布団に転がる颯麻を抱き上げる。
 そのまま、私はまだ一言も発さない両親のいるリビングを後にした。
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