元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜

14 13年ぶりの香り

 2月頭のよく晴れた日曜日。
 私は大輝のお家に、ご両親にお線香を上げに向かっていた。

 高校の頃は見慣れた道。当時は自転車で駆け登っていたこの道を、車の後部に息子を乗せて通るのは不思議な心地がする。

 消防署の前を通り、高校を越えて高台になっている坂の上が、大輝の実家だ。

 ついた――。

 大輝に言われていた通り、ガレージにあるSUVの隣に車を停めさせてもらう。その音を聞いたのか、大輝が玄関を出て降りてきて、私たちを迎えてくれた。

「いらっしゃーい! 梓桜、と颯麻くん!」

 今日も爽やかな笑みをこちらに向ける大輝。
 そんな彼は、一人でも全然大丈夫なんだろうと思う。

 あの日、青空を仰いでいた大輝を寂しそうと思ってしまった。そんな大輝のために、お線香をあげに行きたいと言ってしまったおこがましさ。

 大人げない自分が、大人ぶろうとしていたことに気づいて、今日の約束を後悔していた。

 けれど、行かないのでは不義理だからと今日、颯麻と共にやってきた。こんな気持ちでお家に上がらせてもらおうだなんて、きっと大輝のご両親もがっかりしているだろう。
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