パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 お線香をあげる。部屋内に白檀の香りが広がる。
 そっと目を閉じ、両手を合わせた。

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 大輝のお母さん、お父さん、ご無沙汰してます。
 高校生のころ、大輝とお付き合いしていた塩沢梓桜です。
 あの頃は、大変お世話になりました。
 大輝は今も、とても優しい青年です。
 それに比べて、私はまるでダメ。
 けれど、大輝はそんな私のことを、好きだと言ってくれました。
 嬉しいけれど、私はまだ大輝の隣に立つには未熟だと分かっています。
 だから今は、せめて大輝と並んで立てるよう、できる限り自分のことを頑張っています。

 私は、こんな人間になってしまいました。
 自分のことを好きだと言ってくれる大輝に申し訳ないなという気持ちでいっぱいです。
 けれど、きっと大輝のお母さんもお父さんも、たとえ生きていたとしても私を温かく迎えてくれると思うので……。
 こんな気持ちで会いに来てごめんなさい。
 次に、お二人にお会いするときは、もっとちゃんと胸を張っていられるようにします。

 だからどうか、息子さん――大輝を想う気持ちを、今は許してください。
 大輝に甘えている私を、どうか許してください。

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