元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜
「去年がさ、十三回忌だったんだ」

 私が座ったのを見計らったように、大輝が話し出す。
 颯麻は「うーーーかんかんかん!」と、またミニカーを走らせ始めていた。

「そっか、もうそんなに経つんだね……」

 なのに、あの日のことは今も鮮明に覚えている。
 いつも笑っていた大輝が、私の肩に凭れて泣いたあの日を。

 あの日も、白檀の香りと陽だまりの香りが混じったこの家で、大輝をそっと抱きしめた。
 外は寒くて、でも家の中は温かかった。その温かさは、部屋の暖房のせいだけではなかったと思う。 

「命日って、今くらいだったよね」

「そ。先々週の土曜」

「え……?」

 その日って――

「颯麻くんが、入院した日だな」

 けれどあの日、大輝は書類仕事をして、終わらせたところで私のところに駆けつけてくれた、だったはず。

「じゃあ、お墓参りとか行けなかったよね、ごめん、なんだか――」

「あー、いいの。あれは、俺がしたくてしたこと」

 大輝は言いながら、颯麻に手渡された救急車のミニカーを転がす。

 あの日、私は大輝に甘えて。
 思いっきり泣いて。
 本当はもっと早く動けたのに。
 そうすれば、大輝は――

「それに、うちの両親だったら梓桜のとこ行けって言ったと思うし」

「でも――」

「言い訳無用。俺がしたくて送ったし、俺がしたくて抱きしめた。俺がしたくて告白したし、だから梓桜が気に病む必要はない。分かった?」

 そう言って、私のおでこを小突く。
 とびきりの笑顔に、私は「うん」としか返せなかった。
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