元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜
 消防ポンプ車が去って行った後。
 大輝の腕から解かれた私は、ほう、と息をついていた。

 さっきまで、冬だと言うのに顔は汗が出るほど熱かった。

 というのも、橋本さんが戻ってきた他の消防士さんたちに「彼女、フリーなんですって」と、状況を説明。すると大輝が、私の腰をよりぐっと抱き寄せて。

「梓桜は俺がアタック中なの。だから他の男は彼女を見るの禁止ー。ほら、帰った帰った」

 なんて言うから、消防士さんたちに「ひゅーひゅー」とはやし立てられてしまい。

「変な勘違いされるより、堂々としてた方が仕事しやすいから」

 大輝はそう言うと、やっと私を開放してくれたのだ。

 ――こんなの、あの頃以来かも。

 ふと、脳裏に浮かんだのは高校の頃の思い出。
 手を繋いで校門を出たところで、友達にはやし立てられた。

 けれど、大輝は「俺がベタ惚れなの」と言い張り、繋いでいた手を掲げて見せてくれた。それで、私は真っ赤になって、でもすごく嬉しかった。

 今も、嬉しい気持ちは変わらない。
 けれど、違う。

 私はまだ、大輝の隣に立てるようになってない。だから今は、この愛を受け取れない。

 まだせわしなく働く心臓が早く凪ぐように、深呼吸をした。颯麻がそんな私の真似をして、すうっと大きく息を吸い込む。

 今は、それだけ。
 それだけで、幸せだ。

 そう、思ったのに。

「というわけで、アタック中の俺から梓桜に提案があります」

「え、何!?」

「今度、デートに行きませんか? あ、もちろん颯麻くんも一緒に!」
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