パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 最初は羊にビビっていた息子も、ウサギやモルモットなどの小さな動物たちには徐々に慣れてきた。

 飼育員さんに言われて座り、膝の上にモルモットを乗せた私。すると颯麻が、自らその背をそっと撫でるくらいには慣れていた。

「あったかーい! ぴくぴく!」

 二ヒヒと満面の笑みで、興奮したように膝を曲げ伸ばししながら、颯麻がモルモットの背を撫でる。
 あー、シャッターチャンス!

 なんて思っていると。

「ほら、梓桜もこっち向いて!」

 言われ、振り向くと「カシャリ」と鳴るスマホのシャッター音。

「わ、不意打ち!」

「でも、良いの撮れた」

 見せてもらった画像には、満面の笑みの颯麻と私。
 そういえば、颯麻と映っている写真って少なかったなと思い出す。私ばかりが、颯麻を撮っていたから。

「後で送る」

「うん、ありがと」

 なんだか複雑な気持ちになってしまい、曖昧な返事を返した。

「よろしければご家族皆さまのお写真撮りましょうか?」

 不意に背後から声を掛けられた。
 飼育員さんだった。

「いいんですか?」

 『家族』じゃないのに、大輝は満面の笑みで聞き返す。

「じゃあ、ぜひ」

 大輝はそう言って飼育員さんにスマホを手渡すと、さっと颯麻の後ろに回り込む。そのまま、私も颯麻も抱きしめるように私たちの肩に手を置いて、「お願いしまーす」と声を掛ける。颯麻も「にー」とピースサインをカメラに向けた。

「おー、いい写真。ロック画面にしようっかな」

 大輝は受け取ったスマホを眺め、ニカっと爽やかに笑っていた。それで、私にはまた別の、複雑な気持ちが押し寄せてきてしまった。
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