パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「あのさ、大輝――」

 言えば、大輝は「ん?」とあくび交じりに返事する。そんな大輝の姿に胸がきゅんと鳴って、言おうとしていた言葉を飲み込んでしまう。

『こういうことは、もうしないで』

 言えれば、私はもっと前に進める気がする。けれど、このぬくぬくした大輝の温かさに、もっと浸っていたいと思ってしまう。
 私は弱い人間だ。

 私は何を言おうかしばらく悩み、鞄からチョコレートを取り出した。

「これ、ご所望のチョコレートです」

「わ、マジで持ってきてくれた!」

 大輝は急に背筋をしゃんとする。
 そんな大輝に、私はラッピングされたそれを手渡した。

「これは、お礼を兼ねてっていうか、そういうのだから」

 あまりにも嬉しそうな大輝の笑顔に、私は照れをごまかすようにそう言った。

「なんだ、本命じゃないのかよ」

「それとは、ちょっと違うっていうか……」

 ――いつか、本命のチョコ渡せるように、頑張るね。
 心の中で、そう呟く。
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