パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「大輝はパパじゃないでしょ!」

 睨んでしまった。
 大好きな、その人を。

 大輝の顔が暗いのは、逆光のせいだけじゃない気がする。それでも、私は大輝に強く吐いた言葉を取り消す気にはなれなかった。

 私は自立したいんだ。
 大輝にふさわしい人間になってからじゃないと、私は大輝に並べない。

 さっき誓ったばかりだ。
 いつまでも、この大輝のぬくもりにぬくぬくと浸かっていてはダメなんだって。

 それなのに、私のそんな戒めを大輝にことごとく否定されてしまった気がした。

 許されるなら、浸かりたい。
 甘えて、頼って、それだけで生きていきたい。
 けれど、それじゃだめだと思う。

 それに、私は大輝が思っているような、強くてかっこいい人間じゃない。大輝にそのことがバレてしまって、幻滅されてしまったら。

 まだ生まれたばかりの息子を抱きかかえたまま見せられた、あの日の絶望の光景を繰り返してしまったら。

 ――大輝に、嫌われたくない。
 大輝には、嫌われたくない。

 そばにいたいから、今はまだ――

 自分の情けなさに目頭が熱くなる。
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