元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜
 けれど、頭の中で思うのは、大輝が自分のことを颯麻に「パパ」と呼ばせた事実だ。
 もちろん、大輝はこの子の父親じゃない。

 けれど、大輝は「パパ」と言った。
 それは、彼の覚悟。
 私との未来を、ずっと先まで見ていてくれている、ということ。

 大輝の中で、私はもう大輝と付き合う未来が確定していて、その先まで見ている。
 『恋人』までじゃない。
 その先にある『結婚』や『家族』という未来だ。

 私がとっさに思い出してしまったのは、元旦那に裏切られたあの日。
 けれど、大輝が思い描いていたのは、きっとあの日の家族――

 仲睦まじいご両親、ちょっとおませな妹。
 ――お日さまみたいな、あの家族だ。

 私と大輝とでは、『家族』の捉え方がまるで違う。

 孤独で、裏切りもある、辛いもの。
 温かくて、優しくて、包んでくれるもの。
 その差を私は、埋められる?

 大輝とお付き合いして、結婚して、その先。
 私は大輝のご両親みたいに、温かい家庭を築ける?

 ぐるぐると頭の中に巡る想いに、今の私は結論を出せない。

「大輝、あのさ――」

 信号で、車が停まる。
 また、ルームミラー越しにちらりと目が合った。
 今度は、私はそらさなかった。

「お付き合いとか、そういうことに関してさ。ちょっと気持ち整理したいから、しばらく時間が欲しい」

「ん、分かった」

 大輝がそう言うと、信号が青に変わる。
 静かな車内。車がゆっくりと、走り出した。
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