元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜
 もうすぐ家の前。
 沈黙したままの車内では、颯麻の「ポンプ車ー!」の声が時折響くのみ。

 自分から『時間が欲しい』と言ったのに、寂しいと思ってしまっている。
 大輝と離れたくないと、思ってしまっている。

 ダメだなあ。
 そういうところが、ダメ人間なんだって。

 自分を奮い立たせ、今日大輝が誘ってくれたことに感謝して。
 笑って「またね」って言えるように、頬を両手でムニムニして、表情筋をほぐす。

 その時、不意にスマホの通知に気づいた。
 メッセージアプリを開く。

 そこに表示された名前を見て、先ほどまでほぐしていたはずの表情筋が固まった。
 車が前進するのに、私は全然動けない。

 やがて車が停まる。
 どうやら、私の家に着いたらしい。

「どうした? 梓桜、車酔い……?」

 振り向いた大輝に言われ、はっと顔を上げる。

「顔色悪いけど。大丈夫? 俺の運転、梓桜に合わな――」

「ううん、違うの!」

 私がスマホを手にしていたことに気づき、大輝は「そう」と声を掛けてくれる。

「今言うのもあれだけど、着きました」

「ごめんね、大輝の安全運転はすごく……好き」

 言いながら、スマホをポケットにしまう。
 慌てて颯麻のシートベルトを外し、反対側の扉に回らなきゃいけなかったと思い出し。
 あたふたしていると、颯麻側の扉を大輝が開けて、颯麻を抱きかかえて下ろしてくれた。
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