パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く

18 それでも、前に進むために

「おかーり!」

 と、元気に颯麻が家に入る。
 私は「ただいまでしょ」と言い返す気分にもなれず、そのまま颯麻の靴を脱がせた。

 今日のデートでは、もう少し前を向いていられる予定だったのに。

 大輝のことは、好きだ。
 大輝のことは、尊敬している。
 そんな大輝の隣に立てるようになって、堂々と告白の返事ができるようになって、そうしてお付き合いできたら。

 そんな風に、思ってた。 

「家族、かぁ……」

 私は、その単語に抱く自分の負のイメージを、まだ消せないでいる。
 元旦那の名前を見て、嫌悪感を抱いてしまう。

 もしも大輝が私と付き合って、結婚して、旦那さんになったら。
 今私が想い描いている大輝との未来は、幸せしかないと思っていた、あの頃と同じだ。

 階段をたったっと駆け上る息子を追いかけるように、力なく階段を上っていく。上りながら、脳裏に浮かぶのは別れ際の大輝の顔だ。

 あんな顔、させたかったわけじゃないのに。
 あの日の私と、大輝が重なってしまった。

 大輝は泣いているのかな?
 一人きりで? 私と別れたくなくて?

 あの時は、まだ子供だった私たち。
 不可抗力だった。

 でも、今は?

 ――結局悪いのは、全部私だ。
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