パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 部屋に入ると、颯麻は上着を脱ぎ捨てる。
 私がそれを拾い上げている間に、颯麻は私のバッグを開けて、中からミニカーを取り出す。

 こんなことを、できるようになった颯麻。
 私はあの時から、まだ一歩も進めていない。
 ダメ人間だなぁ……。

 吐き出したため息が思っていたよりも深くて、余計に気持ちが落ちこんだ。
 けれど、何もしていなくても時間は勝手にすぎていく。

 まずは目の前のことを、やらないと。
 そう思って、ポケットからスマホを取り出した。

 元旦那からのメッセージを、見なければいけない。

[年明け以降、養育費の支払いが遅れていてごめんなさい]
[今月も遅れそうですが、必ず振り込むので――]

 メッセージを見ながら、颯麻をちらりと見た。
 床に寝そべって、コロコロとミニカーを転がして遊んでいる。

「養育費、ねえ……」

 今まで、一切連絡してこなかった。
 けれど、ここにきてこんな連絡をよこす彼。
 これは、元旦那の『父親』としての自覚なのだろうか。

 何をどうあがいても、颯麻が彼と私の子である事実は変わらない。
 颯麻は、あの人の子供だ。

 会わなくなって、初めて思った。
 元旦那は、前に進んでいるのかもしれない、と。
 遅すぎたけれど、父親としての責務を果たそうとしているのかもしれない、と。

 止まっているのは、どうやら私だけらしい。

「こんなにダメな母親でごめんね……」

 呟いただけで目頭が熱くなる。
 それなのに、颯麻はこちらに満面の笑みを向けてくれた。
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