パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 立ち止まってしまっているのが私だけなら、前に進まなければならない。
 もやもやとした、鬱蒼とした森の中だとしても、前に進まなければ森からは出られない。

 ただ何となく毎日をこなし、過ごしているだけでは、私は何も変われない。
 分かっていたのに、両親や職場や大輝の優しさに甘えて、今まで動いてこなかったのだと、気付いた。

 翌日からは、気持ちを切り替え物件探しも並行した。
 とにかく、今は一人立ちできるようにならないと。

 仕事、家事、育児、物件探し。
 ハードな毎日だけれど、母に甘えるわけにも、大輝に甘えるわけにもいかない。

「無理しないで、家事はやるわよ?」

 そんな母の申し出も断った。
 私が一人でできないと、意味がない。

 時折、スマホの写真を見返す。

 ポンプ車に乗った颯麻と、それを見つめる大輝。レスキュー車に登った颯麻と、それを支える大輝。モルモットを膝に乗せた私と、それを撫でる颯麻。そして、三人で映った写真――。

 頑張らないと。踏ん張らないと。

 大輝からの連絡は、あの日写真を送ってくれて以降、何もない。けれど、焦がれているだけでは近づけない。だから、がむしゃらにでも進まなくちゃいけない。
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