パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 元旦那はこちらに歩み寄ってくる。
 車は動かせない。私はただ固まったまま、こちらに向かって歩いてくる彼を待つことしかできない。

 コンコン、と彼が軽く運転席の窓をノックする。車内を覗きこちらに向けられたその顔は、微笑んでいた。

 声が聞こえるように、少しだけ窓の上部を開ける。外の冷たい空気が流れ込んできて、私は思わずぶるりと身を震わせた。

「良かった、梓桜に会えて」

「何しに来たの?」

 にこやかな元旦那にも、視線が鋭くなってしまう。
 そんな私自身に、嫌気がさす。

「梓桜と話したくて。いい?」

「あー、うん……」

 いいかどうかを聞かれても、実家まで訪ねてこられては話すしかない。

 無視しようとしても、きっと彼はついてくる。
 下手をしたら、私が彼をこのまま轢いてしまいかねない。
< 146 / 249 >

この作品をシェア

pagetop