パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 顔を上げた元旦那が、こちらを見ていた。
 今にも、泣き出しそうな顔をして。

「え……?」

 何を言っているのか分からない。
 私は、あなたに必要だったの?
 必要ないから、あんなに私を放置したんじゃないの?

 驚きと理解の出来なさに絶句してしまう。
 すると、旦那は続けた。

「梓桜が好きだって、大事だって離れて気づいた。一緒にいたいんだよ、やっぱり俺は」

 まくしたてるように言われ、私の頭の中はぐちゃぐちゃになる。

 確かに、私も好きだった。
 お付き合いを始めた頃は、幸せに満たされていた。

 好きだったから、彼との子供を産んだ。
 好きだったから、明るい未来があるんだと思っていた。
 けれど――。

 黙っていると、元旦那が颯麻の方をじっと見ていることに気づいた。

「大きくなったな」

 颯麻が、ちらりと元旦那の方を向く。

「お前のパパだよ」

 そう言う元旦那と、颯麻の顔は、確かに目元が似ている。遺伝子だから、仕方ない。

 『パパ』だなんて、言わないで欲しい。けれど、それが事実だから、私は何も言い返せない。

 元旦那の頭の中に映る颯麻は、どのくらいの頃なのだろう。どのくらいの頃の颯麻まで、覚えているだろう。

 私は独りぼっちで、泣き叫ぶこの子のお世話をした。泣き、叫び、それでもこの子は私が育てなきゃと、責任感だけで育ててきた。その気持ちを、彼は知らない。

 それでも、彼が『パパ』なのだ。
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