パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 まだ何も言えない私。
 颯麻と似た元旦那の顔を見ていると、不意に脳裏に大輝が浮かんだ。

 笑う顔、寂しそうな背中、堂々とした居姿。
 泣いた私をずっと抱きしめてくれた温もり、分厚い胸板。

『俺のこと、好きになって』

 そう言った大輝の、自信に満ちた顔も、全部。

『パパ』

 颯麻に向かって言った、その覚悟も全部。

 ――大好きだ。

 つまりは、私も元旦那と一緒だ。
 私は元旦那に、男としての魅力を――ううん、人間としての魅力を感じなくなってしまったんだ。

 自分が彼と同類だと思うと、嫌悪感がこみあげてくる。けれど、そう思うくらいには、彼に嫌悪感を抱いているんだ。

 息子との血の繋がりだけで、この人を『家族』と呼ばなきゃいけない未来を考える。
 そんなの、私は――

 こみ上げてきたものを飲み込み、苦しくなった喉を開放して、口を開く。けれど、私は何も発することができなかった。

 颯麻に視線を向ける元旦那を、胸の内からあふれ出てくる色々な想いを堪えた顔で、睨むことしかできない。

 何も言えずにいると、不意に母が口を開いた。
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