パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「梓桜、泣くなよ……」

 不意に、目の前から何かが伸びてくる。
 元旦那の手だった。

「触らないで!」

 反射的に、その手を振り払ってしまった。

「な、梓桜……」

「ご、ごめん……」

 自分でも驚き、口元に手を当てた。

「梓桜は冷たいなぁ。な、そう思うだろ?」

 そう言った元旦那の手は、息子に伸びる。

「嫌っ!」

 その手を振り払うように、私は息子を抱き寄せていた。

「そんなに怖い顔するなよ。いいじゃねーか、俺この子の父親だぞ? この子と俺、血は繋がってるんだから――」

 彼の言う通りだ。
 何をしているんだろう。

 けれど、どうしても彼に触れられるのが嫌だった。とっさに身体が、そう動いてしまうくらいには。

 また黙ってしまうと、また母が口を開いた。

「娘の傷は癒えてないの。娘がどんな思いで『結婚生活』を手放したのか考えてないから、そうやって迂闊に手を伸ばせるんでしょう?」

「……っ、すみませんでした」

 元旦那は母にそう言って、立ち上がる。

「俺は梓桜と結婚して、良かったと思ってる。……また来るよ」

 元旦那は、まだ颯麻を抱きしめたままの私に、儚く悲しい笑顔を残して去っていった。
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