パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 どんなに気持ちが不安定になっていても、身体が勝手に動くようになっていた。
 颯麻と夕飯を食べ、風呂に入れ、一緒に布団に横になる。
 息子のお腹をトントンと優しく叩きながら、目をしばしばむにゃむにゃさせる息子を眺めながら、私はずっと同じことをぐるぐると考えていた。

 さっさと「復縁なんて出来ません」と言えばよかった。
 だって、触れられたくないほど、息子を触れさせたくないほど、あの人のことは嫌いになっているんだから。

 なのに、血がつながっているから、好きだったからと情が沸いて躊躇して、結局言いたいことも言えなかった。
 私が言えなかったことは全部、母が言ってくれた。

 嫌だと思うのに、情を持ってしまう。
 素直な気持ちを、堂々と吐き出すこともできない。
 一人では立ち向かうことのできない、私はダメ人間だ。

 自分の至らなさに、涙が溢れた。

 あんなに迷って離婚を決めて、弁護士に連絡したあの日がすごく遠くに思える。
 手続きに鬱憤としながら、それでも離れるために頑張った。
 そんな毎日を否定して、やっぱり間違っていたなんて言えるはずないのに。

 もう既に、『離婚』したのに。

 私の選択は正しかった。
 そう思うけれど、本当に正しかったのか自信が持てない。
 浮気が許せなかったのは、私の心が狭いからかもしれないと思ってしまう。

 何が正しいのか、分からなくなってしまう。
 誰かが私を導いてくれればいいのに。

 そう思って、また何かにすがろうとしていることに気づいた。

 本当にだめだなあ、私って。

 思えば思うほど、涙が溢れて止まらなかった。
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