元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜
 嘘でしょ、なにこの煙――!
 一階に降りて、反射的にダイニングの方を向き、目を見開いた。

 燃えている。キッチンが。

「お母さんお父さん! 起きて!」

 大声を出して、反動で息を吸い込み、思いっきり噎せこんでしまう。

 そうだ、消火器!
 初期消火が大事だと、慌てて消火器の位置を確認した。

 消火器は燃えさかる火の向こう側だ。

 じゃ、じゃあせめて水!

 慌てて風呂場から洗面器を持ち出し、水をためる。
 その時間がもどかしい。

 早く、早く水溜まって!

 その間にも煙で視界が悪くなっていく。

 これじゃだめだ、せめて――

 私は慌てて二階に駆けあがり、颯麻を抱きかかえて階段を駆け下りる。
 けれど、颯麻を抱えたままでは何もできない。

 とにかく、何とかしないと!

「お母さん! お父さん!?」

 返答はない。
 そのことに、もしかしたらすでに避難したのかもしれないと思い至る。

 私はその可能性にかけて、家の外に飛び出した。
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