元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜
「でも――」

 窓の向こうは障子戸になっていて、良く見えない。
 けれど、赤く燃えているそこでは黒い煙の影がほわほわと動いていて、中に火の手が回っていることを伝えていた。

「この子を一人にしたらだめ!」

 おばさんの聞いたことのない怒鳴り声に、思わず身がピクリと震えた。
 目を閉じていた颯麻がその声に、うわんうわんと泣き出す。
 けれどおばさんは、私の顔を見てまだ大きな声を出す。

「この子のそばにいてあげなさい。母親なんでしょう!」

 ――そうだ。
 私は、この子のたった一人の『母親』。

「119番した。もうすぐ助けが来るから。落ち着いて!」

 そうか、最初に119番すべきだったんだ。

 わんわん泣いている息子。
 毛布にくるんで抱きかかえ、私は燃えていく家を見ていることしかできない。
 焦げ臭さ、何か別のツンとした匂い、それからパチパチと燃える音――。

 思考が冷静になっていくにつれて、自分に腹が立ち、悔しくて涙が溢れそうになる。
 やっぱり私は、ダメな人間だ。
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