パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 立ち尽くしたまま、消防が来るまでの時間がもどかしい。
 その長い沈黙のなか、私の脳内は自分ができなかったことに対する後悔と、まだ中にいるだろう父母に対する懺悔でいっぱいだった。

 どうして私はできないんだろう。
 どうして私はダメなんだろう。

 颯麻が泣き叫び、ご近所さんが避難のために集まってくる。
 周りががやがやして、わざわざしても、洗面器に水をためるしか脳が働かなかった自分を責め、ただ燃えてゆく家を見つめることしかできない。

 消防車のサイレンが聞こえてきて、はっと我に返った。
 ご近所さんが道を開け、消防車が入ってくる。
 止まった消防ポンプ車から降りてきた消防士さんたちは、防火服に身を包んでいた。

「下がってください!」

 私たち住民を遠ざけ、消火栓の蓋を開ける人。
 火元を確認しようと、建物に近づく人。

 その中に、辺りを確認してから、こちらに駆け寄ってくる人が一人。

「梓桜!」

 ヘルメットの下、その顔を見ただけで急に安堵した。
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