パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「大輝!」

 彼はちらりと私の腕の中を見る。
 颯麻は、いつの間にか泣き止んでいた。

「おじさんとおばさんは!?」

「まだ中に……」

「分かった。どのあたりにいるか分かるか?」

「寝室は一階の和室――リビングの奥の部屋なの! 逃げるときにキッチンが燃えてたから、もしかしたら――」

 言いながら最悪の未来が浮かび、ブルリと身体が震えた。
 背中の粟立ちは収まらず、そうなったらどうしようと顔から血の気が引いてゆく。

 大輝は真剣な顔で、胸元についたトランシーバーを手にしていた。

「「火元一階北東奥キッチン、要救助者二名が一階南東の和室にいる可能性あり。うち男性、右足不随あり」」

「大輝……」

 縋るように彼の名前を呼んでしまった。
 けれど大輝は、真剣な顔で、分厚いグローブのまま私の頭を撫でて。

「梓桜の説明、的確で助かった」

 身を翻し、走っていくオレンジ色の背中。
 マスクをつけ、ヘルメットをかぶった彼に、私は「どうか助けて」と願うことしかできなかった。
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