元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜
「梓桜! 良かった、颯麻くんも無事で……」

 いつもよりもか細い声で、救急車に乗り込んだ母が言う。

「無理して喋らないで。私も颯麻も生きてるよ。お父さんも、お母さんも無事で本当に良かった……」

 なんとか涙を収めて言う。
 父も落ち着いているが、とても喋れる状況ではないらしい。
 ずっと噎せこんでいて、でも生きていると分かっただけで嬉しい。

「お二人はこのまま緊急搬送しますね。救急隊に引き継ぎます」

 私の隣で、ヘルメットを外した大輝が言った。

「梓桜は――」

「私は大丈夫。ケガもないし、ここに残ったほうがいいでしょ?」

「まあ、一人でも家の人がいてくれると助かる。でも、無理すんなよ」

 母は小さな声で「良かったわ」と呟き、まだせき込んでいる父に寄り添う。
 私は「うん」と大輝に返し、サイレンを鳴らしながら去って行く救急車を見送った。
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