パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 貸出手続きをしている間も、息子はずっと暴れながら「ダメー!」と叫ぶ。
 その度に周りの目が気になり、こんな母親でごめんなさいと周囲に申し訳なくなる。

 私がもっとちゃんとしていれば。
 余裕がある母親なら、こんな風にはならないかもしれないけれど――。

 悔しくて、不甲斐なくて、目頭がかっと熱くなる。
 ああ、ダメだ。
 こんなことで泣いてしまいそうになるなんて。

 ぐっと奥歯を噛み占めながら、自動貸し出し機で手続きを終えて本を鞄に仕舞おうと思った時だった。

「お子さん、消防車お好きなんですか?」

 職員らしい女性に、不意に声を掛けられた。
 はっとして、「うるさくしてすみません」と慌てて謝る。

「いえいえ。いいのよ、元気がいいのはちゃんと育っている証拠」

 彼女はニコニコしながら、息子にとあるチラシを手渡してくれた。

「これ、知ってます? 今度そこの公園でやる、市民祭りなんだけれど」
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