パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「でも、俺ちょっと梓桜のこと舐めてたわ。お前も男と遊んでたんだな」

 元旦那はケッと吐き捨てるように、厭らしく言う。何も言い返せなくて、私は弛めたはずのこぶしを、また握ってしまった。すると――

「彼女は遊んでなんかいません」

 大輝の凛とした声が、きっぱり告げた。

「彼女はお前とは違う。彼女は颯麻くんのことも家族のことも大事にして、一人で頑張れる人だ。それを大切にしようとしなかったなんて馬鹿ですね。こんなに魅力的な女性を切り捨てて、他の女と遊んでたんでしょ? 彼女の良さが、分からないなんて――」

「分かってたさ。梓桜は家のことに一生懸命な女だって」

「それ、彼女を良いように利用してただけじゃねーか! 自分の都合のいいように、上っ面に愛を説いてたんだろ」

「んだよ、ただの消防職員さんがよく言うよ。あんた、梓桜に洗脳されてんじゃねーの?」

「そんなわけない。ずっと昔から、俺の片思いだ」

 そう言った大輝が、こちらを見る。
 一瞬目が合って、優しく笑って。
 けれどすぐに厳しい顔をして、元旦那の方へ向き直る。

「ちゃんと放火の罪も償って、まともな人間になれよ」

「……ちっ」

 元旦那は舌打ちを残して、警察と共にパトカーに乗り込む。その扉がばたんと閉まり、元旦那は連行されていった。

 そんなパトカーの後ろ姿を、私は複雑な気持ちで見つめていた。
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