元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜
 やがて空が明るみ、世界が白みがかっていく。

 その頃には、泣いてるのかいないのか、自分では分からなくなっていた。暖房の効いた部屋の中で、頬だけがやたらと冷たく感じる。

 ふと、窓の外に目を向けた。その悲惨な光景に言葉を失った。

 キッチン横の勝手口だと思われる部分は黒く焼け焦げ、その外壁も焼けたのか煤なのか、黒いものがまとわりついている。
 玄関先はきれいに残っているものの、火の手が回ったと思われる家の半分は黒く煤ずんでいた。

 この家だけは、どうにかして私が。
 そう思うけれど、颯麻を抱えたままでは、私は動くこともできない。

「梓桜ちゃん、眠れたかしら?」

 振り向けば、おばさんが立っていた。

「あー、えっと……」

「眠れないわよね。野暮な質問だった」

 おばさんは私の腕の中を覗く。
 颯麻が、むにゃむにゃと目を開いたところだった。

「あら、息子くんも起きたかしら?」

「おぱよ……」

 ふにゃんと笑いながら、颯麻が私に言う。
 その笑顔に、少しだけ心が和んでいく。
 それで、私はそんなに気を張っていたのかと気づいた。

 ――でも、やれることはやらないとね。

「お世話になりました」

 私はそう言って、颯麻を抱きかかえたままおばさんの家を後にした。 
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