パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 大輝の申し出はありがたかったけれど、父と母は恐縮してしまい、とりあえず今夜、私と颯麻だけだけはということで、話がまとまった。

 明日、退院時にまた迎えにくると約束し病院から出た。

「大輝、さっきの話――本当にいいの?」

 駐車場に向かいながら、大輝に訊いた。

「ん、もちろん。ほら、梓桜も知っての通り、あの一軒家に俺一人じゃ広すぎるからさ」

「でも――」

 あの場所は、大輝にとって、ご両親と過ごした大事な場所。そんな思い出の詰まった場所に、私たち家族がお邪魔するのは申し訳ない。

「ま、とにかく今夜はいいよ。これからどうするかは、その先に考えればいい。いったん家戻って、それから颯麻くんのお迎えも行かなきゃだろ?」

 大輝はそう言って、車の運転席の扉を開ける。

「……そうだよね、ありがとう」

 たとえ、その日暮らしでも。
 今は、差し伸べてもらったこの手を取るしかない。

「それにさ、」

 私が助手席に乗り込んだのを見て、大輝がシートベルトを締めながら言った。

「好きな女が困ってんのに、手を差し伸べられないなんて男じゃないって思うから」

 お道化ているのか、本心なのか。
 ニカっと笑う大輝からは、どちらなのか分からなかった。
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