元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜
「おお、ありがとう颯麻くん!」

 綻んだ父の顔は、悲しくも見える。

「新しい家はな、お母さんと相談して、入り口にスロープをつけた平屋にしようと思ってるんだ」

 父は私の方を向いて、そう言った。

「広すぎても仕方ないしな。設計ももうほぼ済んで、手配諸々も済ませてあるから、地鎮祭は来週だ!」

 得意げに言う父は「ゼネコン勤めで良かったよ」と付け加える。

 父の勤める会社は、父の大学時代の学友が立ち上げた大手ゼネコンだ。その父の友人が社長を務めているから、そのあたりも相まってのことの運びの早さなのだろうと思う。

「このままで行けば、4か月後――7月半ばには、竣工(しゅんこう)できるからな!」

 父は更地になった場所に目線を向けながら言う。そして、手元の颯麻が拾った石に目を向けた。

 その目には、未来と過去と、両方が映っているような気がして。気丈に振舞ってくれるのは、きっと父が前を向こうと頑張っているのだと、娘ながらにそう思った。
< 205 / 249 >

この作品をシェア

pagetop