パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 ファミレスに寄って昼食を取り、大輝の家に戻る頃には颯麻はお昼寝をしてしまっていた。そんな颯麻を抱きかかえリビングに入ると、いつも通りお日さまみたいな匂いがした。

 父が右足を引きずりながら、ゆっくりと後ろから入ってくる。母はそんな父を支えながらリビングへ入り、父を椅子に座らせた。

「お茶でも淹れる?」

 母が言い、キッチンへ向かう。
 私はリビングのテーブル前に座り、颯麻を抱えたまま和室の方を向いた。仏壇の扉が開いていて、そこに大輝のご両親の写真が見える。

 ――本当に、このままでいいのかな?

 昨夜のことを思い出し、優しすぎる大輝に想いを馳せる。ため息を零すと、背後から「いいわねえ、こっちも」などと声が聞こえた。

「どうだ、梓桜も見てくれよ」

 振り向けば、父と母がパソコンを覗いている。見ているのは、新しい塩沢家の図面とCGで作成したイメージ絵だ。

 けれど、振り返った瞬間に両親が顔を曇らせた。私は一体、どんな顔をしていたのだろう。

「ああ、ごめん! えっと……」

 立ち上がろうとして母に制され、代わりに母が私の斜め前に座った。いつの前にか、私の前には温かいお茶が置かれている。

「梓桜、何を考えていたの?」

「……大輝のこと」

 言いながら、まっすぐに仏壇を見た。
 また、大輝のご両親が目に入った。

 高校生の頃の記憶、このリビングで、二人が目の前に座っていたこと思い出す。
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