元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜
 ヴー、ヴー。

 スマホの鳴る音がして、はっとした。
 近づいていた顔が、ぱっと離れる。

 大輝は、テーブルの上のスマホをさっと手に取る。

「悪い」

 そう言って、大輝はスマホを耳に当てた。
 すごく、真剣な顔で。

「――はい、すぐ準備します」

 大輝はそう言うと、スマホを切る。

「召集かかった。悪い、仕事だ」

 大輝はそう言うと私の頭をぐしゃりと撫で、そのまま立ち上がる。

「お休みなのに行くの?」

「あー、俺の仕事って特殊でさ。まあ、言うなれば今日はこれから、深夜残業ってとこだ」

 大輝は言いながら、棚に置いてあったグローブや懐中電灯を、リュックの中に放る。それを足元に置くと、急に着ていたスウェットを脱ぎ始めた。

 大輝の鍛えられた、逞しい腹筋がちらりと見えてしまい、慌てて反対の方を向く。

「ご、ごめん! 私、部屋出るね!」

 言いながら、大輝に背を向けそのまま部屋を出た。

 大輝の部屋の扉にもたれ、胸に手を当て、はあはあと短い呼吸を繰り返した。
 胸がバクバクいっている。顔が熱い。きっと今、真っ赤だ。

 もうアラサーなのに。恋をしたことがないわけじゃないのに。

 大輝と触れそうになった唇に、そっと指で触れてみる。先ほどの、近づいてくる大輝の気配を思い出し、胸がきゅうっと苦しくなる。

 良い年した、大人なのに。
 まるで、高校生みたいだ。

 ふうーっと長く息を吐き、心を落ち着かせる。
 よし、もう大丈夫。

 その時、背後の扉がガチャリと開いた。
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