パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「あ、ここにいた」

 外行きに着替えた大輝が立っている。

「あ、あのさ!」

 私は慌ててそこから退いて、部屋を出た大輝に向き合った。

「行ってらっしゃい。頑張ってね!」

 大きな大輝を見上げた。月並みな言葉しか言えないけれど、少しでも大輝の力になれば嬉しい。

 いつも恐怖と戦っている、大輝の使命感に比べたら、こんなものはちっぽけかもしれないけれど。

 大輝は目を見開き、それから二カっと笑う。
 そして。

「行ってきます」

 そう言いがら、急にかがんだ大輝の唇が、私の唇に触れた。

「え……?」

 一瞬のことに、頭が追い付かない。
 なのに。

「これで百万力」

 そう言って爽やかに笑った大輝は、リュックをひょいっと背負い、階段を下りていく。

 ――どうか無事でありますように。

 そう祈りながら、私は大輝の背中を見送った。
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