パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「火事、あそこね」

 やってきた母が後ろでそう言う。
 振り返れば、悲痛な顔をした母がその場所を見つめていた。

 昨日の夜に大輝に召集がかかって、まだこの状態――。
 きっと、消火活動は難航しているのだろう。

 そんな、大規模な火事だったんだ。

 大輝は、あの火を止めようと頑張っている。
 あの火を消そうと戦っている。

『やっぱり出動の時は毎回怖いんだ』

 そう言った大輝を思い出す。
 無事を祈ることしかできない無力さに、やる瀬無さが募る。

 大輝はあんなにしてくれたのに、私は何も――

 ――ううん、今の私は。

 私はポケットからスマホを取り出して、メッセージアプリを起動した。

 届くか分からないけれど、応援したい。それが助けになるなら。せめて、任務から戻ったときに安心してもらえるなら。

 そう思って、私は「頑張れ!」の大輝にスタンプを送った。
 魚みたいな龍みたいな、何だか良く分からない生物のキャラクターの。
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