元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜

29 新たなスタート

 4か月が経った。
 梅雨が開け蝉が鳴き始めた、じめっとした暑い夏の日。塩沢家は、無事竣工した。

 今日、塩沢家はここに引越す。

 私は家族と大輝と共に、竣工した家の前に立っていた。立派な平屋の一軒家は、入り口に階段とスロープ両方がついている。

 あの更地だった場所に、もう家が建っている。

 そう思うと、懐かしい気持ちと悲しい気持ちと、新たな気持ちが同時にやってきた。

 玄関を開けると、明るい木の床と白い壁。まだ家具の何もない家は、玄関から見ても広々としている。

 後からゆっくりとやってきた父が、「いい家だろう?」と言いながら、ポケット何かを取り出した。そしてそれを、玄関の靴箱の上に置く。

「颯麻くんがくれた、『おうちの石』だよ。今日からこれが、このお家の守り神だ」

「お家、お家、あたらちーお家~♪」

 颯麻は嬉しそうに玄関に腰かけ、足をバタバタさせて靴を脱ぎ捨てると、家の中に駆けて行った。

「あー、もう颯麻!」

 慌てて脱ぎ捨てられた靴をそろえ、私も家に上がる。
 
「からっぽだー! ひろーい!」

 リビングダイニングと思わしき場所と走り回る颯麻。それを見守っていると、後ろから入ってきた大輝に肩を抱かれた。

「お義母さんとお義父さん、引っ越し業者来るまで玄関に座ってるって」

「うん」

 大輝がさらっと『お義父さん』『お義母さん』と言うのが、私はまだくすぐったい。
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