パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「え、いいよお母さん!」

「お泊り、するー!」

 私の声は虚しく、颯麻は母に同調する。

「ママと大輝も帰るからね! いないからね!」

「いいよー、バイバーイ」

 手を振られてしまった。悲しさと気まずさで固まっていると、立ち上がった母に肩を叩かれた。

「今日くらい甘えなさい。いつまでも、二人きりで過ごせなくなるわよ」

「お母さん、すぐそういうこと――」

 すると、母は大輝の方を振り向いて。

「今まで頑張ってくれたお礼よ。大輝くん」

「ちょっと待っ――」

「ではお言葉に甘えて、梓桜さんと二人で過ごさせていただきます!」

 私の声はまたも虚しく、大輝の元気な宣言にかき消されてしまった。

「お父さんも何か言ってよ!」

「いやぁ、大輝くんのことは信頼しているし、お母さんがいいって言うなら私は止める権利がないからなぁ」

 父に振っても甲斐なし。

「ああー、もう!」

 言った私の肩を、ぐっと大輝が抱き寄せる。

「帰ろうか、梓桜」

「うん。……颯麻のこと、よろしくお願いいたします」

 言いながら、大輝と触れた部分がじんじんと熱い。
 鼓動がどんどんと早くなる。

 今夜は、大輝と二人きりだ。
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