パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 けれど、その言い聞かせも虚しく、胸は高鳴りを続けたまま大輝の家についてしまった。
 ドアを開け、助手席から降りようと身体をねじる。

「え、何で!」

 身体が動かない。バタバタしていると「どうしたー?」と大輝がやってくる。

「降りられない!」

 叫ぶと、大輝はこちらに身を乗り出して。カチッと音がして、しゅるしゅるーと何かが私を斜めに横切っていく。

「シートベルト」

 大輝がニカっと笑って言うから、余計に顔が熱くなる。

 私、動揺しすぎでしょ!

「せっかくだから」

 と、大輝は私に手のひらを向けてくれた。ドキドキしながらその手を取ると、大輝は微笑む。

 温かくて、大きな、大好きな手。私はその手を、ぎゅっと握った。
 束の間の、大輝のエスコートだ。
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