パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 私も着替えようと、二階に上がる。けれど、部屋についてから思い出した。

 タオルを持ってくるのを忘れた!

 急いで脱衣場のある一階へと戻り、ガラガラと戸を開ける。その先にあったのは、逞しすぎる上半身をさらけ出した、大輝だった。

 こちら側に向けているのは背中だが、洗面台の鏡に映った彼の胸筋に目がいってしまう。

 と、鏡越しに目が合う。

「わわわ! ごめ……」

 慌てて戸を閉めた。
 なのに、再びガラガラと戸が開く。

「梓桜もシャワー?」

「た、タオル取りに来ただけ!」

 慌ててくるりと背を向けそう言うと、ばさりと頭にタオルが乗る。

 それから、頬に何かが触れた。ちゅっと立てられた音で、それが大輝の唇だと察した。

「梓桜は可愛いなあ」

 大輝のそう言う声と、ケラケラ笑う声と、戸がガラガラと閉まる音が聞こえて、私はほっと胸をなでおろした。

 家族がいないというだけで、こんなにも動揺してしまう。

 でも、忘れかけていた気持ちを取り戻したようで、ちょっとだけ嬉しい。胸はドクドクと高鳴るのに、頬はニマニマと垂れてしまった。
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