パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 ◇

 消防署から展示のためにレスキュー車を走らせ、公園に向かった。
 道路沿いの通路との入り口にレスキュー車を停め、湧いてきた子供たちに手を振り。
 ミニポンプ車の手伝いをしに、その列に向かった。

 一目で分かった。初恋の、いや今でも好きな女が、列に並んでいる。
 子どもたちにシールを配りながら、夢じゃないかと何度も何度も彼女の方を振り向いた。彼女に近づけば近づくほど、胸が高鳴って仕方なかった。

 梓桜に早く会いたいという気持ちと、他人の空似で合ってほしい気持ちがせめぎ合っていた。彼女の腕に、子供が抱かれていたから。

 けれど案の定、それは梓桜本人で、彼女の子供だった。

 梓桜が産んだ、素直で優しくて愛らしい、しかも消防自動車の大好きな小さな命。それはたまらなく可愛くて、さすが梓桜の子だと思った。
 けれど、同時に虚しかった。梓桜はあの日から、人間としても女性としても前進していて、自分だけが取り残されている気がした。

 そりゃ、あれから10年以上経ってんだ。当たり前だよな。

 彼女は会場ではたくさんの消防隊員に声を掛けられ、彼女が既婚者であることが分かってるのにそれが嫌で。何度も列に並びにくる梓桜(と颯麻)に、大輝は自ら声を掛けに行った。
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