パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「ひゃっ!」

 大輝の顔が近くて、そんな声を出してしまった。

「おっと、悪い」

 私が驚いたと思ったらしい。
 大輝はすぐに私を下ろすと、その腕のなかに息子も下ろしてくれた。

 けれど、私の胸は忙しく鼓動を打ち始める。

 ――思ったよりも、ずっとたくましい筋肉だった。

 ドキドキとしている私にお構いなしに、大輝は「そうだ」と口を開いた。
 それから、「ちょっと待ってて」とどこかへ行き、すぐに戻ってきて。

「これ。二週間後だけど、まだ空きあるからさ。良かったら、来てよ」

 手渡されたのは、『消防署見学会』のチラシ。

「はしご車とか、運が良ければ救急車も停まってるかも」

「はしご車! 見る!」

 息子は言われた言葉に即座に反応する。
 苦笑いをこぼすと、大輝は息子の頭をガシっと撫でた。

「今度は、ぜひ旦那さんも一緒に」

「あー……うん」

 ニカっと笑った大輝に、そう返すことしかできなかった。

「じゃあ、二週間後に会いましょう!」

 そう言って、大輝はレスキュー車に乗り込んだ。
 どうやら、この車を消防署に返すのが彼の仕事だったらしい。

 運転席から、大輝はこちらに向かって敬礼を切る。
 息子は嬉しそうに敬礼を返して、去って行くレスキュー車を見送っていた。
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