元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜
 やがて消防署の見学会は、最後の目玉にうつる。防火衣室から、車庫にかけての見学だ。

 ここが終わると、自由解散。
 終わりの時間が過ぎても、声を掛けられるまで自由に消防自動車の見学をしていいらしい。

 もちろん、息子にとっては願ったり叶ったりな時間だ。
 防火衣室を抜けた先、赤いボディの消防自動車が見えた瞬間に、颯麻は私の腕から抜け出そうと暴れ出す。

「ダメダメ、勝手に行ったら迷子になっちゃうよ!」

 消防署内でも、一番広い場所だ。
 万が一、こんなところで事故なんて起こすわけにもいかない。目が離せないし、目を離してはいけない。

 どうにか颯麻をなだめようとするけれど、颯麻は背中をそらせて下ろせ下ろせとアピールする。

「ダメー! ポンプ車、見るー!」

「はいはい、分かったから順番ね」

「順番、ないーーーー!」

 精一杯仰け反って、私が背中を支えていないと逆さを向いてしまいそうだ。
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