パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「梓桜のとこは、旦那さん忙しい人なんだ?」

「あー……」

 旦那のことを言われると、あの光景を思い出してしまう。

 まだ首も座らない、産まれたばかりの息子を自宅に連れて帰ったあの日。寝室から聞こえた、喘ぎ声。黙ったまま私を睨んで帰って行った、元後輩。

 いつの間にかうつむいていた。
 視界に私の小さなスニーカーと、大輝の大きな黒のブーツが映る。

 目の前にいる大輝とは大違いな、ダメ人間でダメ女な私。どうしようもなく劣等感が襲ってくる。

 二度も聞かれた旦那のことを、笑ってごまかせるほど、私は大人じゃないらしい。

「……旦那はいないんだ」

 絞り出した声は、思いのほか小さい。
 視界がぼやけて、唇を食いしばった。けれど、堪えられなかった涙がぽたりと落ちる。

 大輝は、そんな呟きのような私の声を、聞き逃さなかった。

「……悪い、無神経だった」
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