パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「救急車ー!」

 息子のはしゃぐ声が聞こえる。
 消防署見学者の中で、誰よりも大きな声を出している。

 私は俯いたまま、必死に涙を堪えていた。

『無神経だった』

 大輝はすぐにそう言って謝り、それ以上追求してこない。
 私の気持ちを(おもんぱか)ってくれているらしい。
 話に触れては来ないけれど、安心できる距離にそっと佇んでいてくれる。

 人格者な大輝。
 自立できていない、ダメ人間な私。

 比べてしまい、自分が惨めになる。
 それで、余計に目頭が熱くなる。

「私こそ、ごめん……」

 大輝の前では、強い自分でいたかった。
 なのに、こんな姿を見せてしまうなんて。

 上着の袖で涙を拭い、無理矢理に頬を引き上げた。
 それが私にできる、精一杯の強がりだった。

 けれど、顔は上げられない。
 こんな子供みたいな泣き姿を、大輝に見られたくはない。
< 40 / 249 >

この作品をシェア

pagetop