元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜

6 甘くて切なくて、拙い思い出

 大輝と橋本さんに見送られて、消防署を後にした。
 ずっと手を振ってくれる二人に、息子はすっかり懐いてずっと手を振り返していた。

 やがて車を停めていた駐車場に来ると、息子は抱っこの中でうとうととし始める。後部座席のチャイルドシートに乗せるころには、ほぼ目をつぶっていて、手からおもちゃのミニカーが落ちそうになっていた。

 慌てて拾い上げ、鞄に仕舞う。

 運転席に周り、ドアを開け、そのまま私は動きを止めた。駐車場からは、私の通っていた高校の正門が見える。

 大輝と出会い、付き合って、別れた場所。
 高校時代には、大切な思い出がたくさん詰まっている。

 懐かしく、甘くて切なくて、ちょっと苦い青春の思い出。

「大好きだったよな、大輝のこと――」

 思い返せば、胸が跳ねるくらいには好きだった。
 けれど、同時に思う。大人ぶってただけで、全然未熟だったな、と。

 そして、それは、今も。

 運転席に乗り込み、車を家に向かって走らせる。
 全然成長できていないなと思いながら、静かな車内でため息をこぼす。

 あの頃のことを、思い出しながら――。
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