パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 大輝の家には、何度か訪れたことがあった。
 ご両親に、私を紹介してくれたりもした。
 大輝のご両親も、お日さまみたいな温かい人たちだった。

 そんな二人が、仏壇の中の遺影の中で、ニコニコと笑っている。
 お線香をあげ、手を合わせると、この人たちはもう戻って来ないんだという悲しみに包まれる。

「うちの愚息を末永くよろしくお願いします!」

 恋人だと大輝が紹介してくれた日、彼のお父さんがそう言って大輝の頭を無理やり下げて、一家が笑いに包まれた。
 そんな温かな日々は、もう戻って来ない。

 ――私がこれだけ悲しいのに、大輝が悲しくないわけがない。

 そう思うのに、後ろにいる大輝は私に笑顔を向ける。
 無理やりに、笑ったような笑顔だった。

「本当は俺から連絡して、話そうと思ってたんだけど」

 大輝は私にバツが悪そうに切り出す。

「梓桜のことは、大好きだし、離れたくないって思ってる。でも、これからの生活とか、妹のこととか考えて、ここから離れようって、叔母さんと話して決めたんだ」

「そっか……」

 ズキン、と胸が痛くなる。
 けれど、大輝が感じている悲しみに比べれば、こんな痛みはなんてことないように思えた。

「春になったら、叔母さん家族の住んでる名古屋に引越す。今学期中は、叔母さんがいてくれるからこっちで過ごすけど――」

 大輝は口を噤み、しばし沈黙が私たちを包む。
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